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トレイルランニング 初心者体験記第1話~水筒はいらなかった・前編~
トレイルランニング 初心者体験記第2話~水筒はいらなかった・後編~
汗対策、冷え対策に超大事なウエア選び
「そろそろ出発するので、皆さん準備をはじめてください」とアランコーチ。岩の上に座っていたのは15分くらいだろうか。「風が強いので体が冷えてきたと思います。またしばらくは岩場で歩きが続くので、上着を着たままで大丈夫だと思います」
確かに、休憩中に汗が冷えたのと強風のせいで、体感温度が一気に下がった。冬場、動き回っている間はいいが、しばらく休んでいるとブルブル震えるくらい寒くなる。休憩時間を短くして、体が芯まで冷え切る前に動き出したほうがいいのだろう。
イベント詳細に書いてあった服装の注意点に、「肌に触れる衣類は化繊のものを選んでください」とあった。コットンなどの天然素材だと、汗を吸収したら乾くのに時間がかかり、不快感や冷えの原因になるのだ。
トップスは登山用のポリエステル繊維のものを選んだが、下着は化繊のものを持っておらず、普段使っているコットン素材だった。確かに、汗を吸って肌にぺったりと張り付き、さらに寒風に吹かれて冷やされたせいで、下着が触れている部分がひやっとする。注意点にわざわざ書かれていることは、守らないといけないな…。
持参していた山用のハードシェルを着込んだまま、岩場を歩き出す。上着は重かったけど、今回は持ってきて良かった。次回のトレランまでに化繊のアンダーウェアを用意しておかねば。
「岩場が終わったら、下り坂に入ります。それぞれのペースで楽しみましょう!」とアランコーチ。後ろにいた私に、「よしぞうさんは下りの途中で1人になると思いますが、ここも一本道なのでゆっくり降りてきてもらって大丈夫です。途中で待っていますから」
そうか、これからは後半戦の下り! 下りも走るんだよね。そういえば、下り坂を走り降りたことなんて、子どもの時以来無い。転びそうだけど、皆どうやって走るんだろうか。と考えていると、「下りの走り方、少しレクチャーしますね」とアランコーチの天の声。
「道幅が広い場所では、蛇行しながら走ると下りの衝撃を和らげることができます。あまり大きく蛇行すると走行距離が長くなるので、加減してくださいね。急な下りでは、片方の足を前に出して軸足にして、もう片方の足は後ろに引いて両足で馬が跳ねるように下りるギャロップという方法もあります。蛇行できない細い道でスピードを調整しながら走るのに向いています」
実演してくれるアランコーチ。ふむふむ。利き足を前に出して、もう片方の足を後ろに引いて、つま先を外側に向けるのだな。そんでぴょんぴょん跳ねる感じ…。こうすると普通に走るより安定するし、スピードのコントロールもしやすいのだろう。とりあえずやってみよう!
トレランの醍醐味は下り坂にあり、でも初心者は想像以上に走れない!
「みなさん、お待ちかねの下りです!それぞれのペースで楽しんでください!」と高らかに宣言して先頭を走りだすアランコーチ。それに続く参加者の表情も明るい。私はもちろん最後尾に付く。ひとまず前の人について行って走り方を観察してみよう。
走っていく集団の足元を見ていると、皆歩幅が小さく、上下するスピードが一定でリズミカルだ。木の根や段差でも大きく飛び越えたりはせず、一定のリズムが崩れていない。歩幅が小さいのにスピードが速いのは、足の回転数が多いのと、ブレーキをほとんどかけないからだろう。私なら一度立ち止まってよいしょ、と足を降ろすような段差も、ほとんどスピードを落とさずに超えていく。腰が引けておらず、むしろ坂に対して体が垂直な状態なのもポイントなのだろう。
1人観察に耽っていると、あっという間に集団は目の前から消えてしまった。ドタバタという音もなく、まさに風のようにさーーーっと私の前から姿を消したのだ。
待ってくれ!と心の中で叫んで走り出す。が、スピードが出ると同時に恐怖心も出てきて、腰が引けてしまう。前へ進もうと思っても、どんどん腰が引けてお尻も下がってくる。剝き出しの木の根や小さい石ころ、時折目の前に現れる木の枝にも気を取られて立ち止まってしまう。体中の汗が冷や汗に変わってきた。走って降りるのが怖い…。
ここを走って行けるって…。あの人たちは人間ではなかったのかもしれない。鹿とかガゼルとか、俊足の草食動物が人間に化けていたのだ。それで私が今日のカモで、山の中に置いて行かれて、そろそろ熊が出てきて食べられるのだ。そうだ、ガゼル達は熊に捕食されないために、人間を1人生贄に差し出す契約を交わしているのか!
そんな妄想を楽しんでいる場合ではない。このルートは登山者はほとんど通らないからトレランに向いているとアランコーチは言っていた。ササに覆われた道の両脇からは、その奥の様子を伺うことが出来ない。なんとか合流しなければ本当に野生動物に遭遇するかもしれない。走るのは諦めて、できる範囲で早歩きしながら進もう。もう全く見えなくなったガゼル達をじわじわ追い詰める猟師にならなくては。
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