ラン歴ゼロ、トレランの知識ゼロでやる気だけを胸に飛び込んだトレランイベント。最後尾を大幅に遅れながらトレイルを走っていくよしぞう。岩穴くぐりの道では、荷物を詰め込みすぎてパンパンのザックが岩穴にひっかかり、前に進めないというまさかの危機が。仲間の手助けでなんとか前進することができた。
強者になるには時間が必要!誰でも最初は初心者だった
参加者全員が順調に岩穴をくぐり抜けた。ランニング歴が長い参加者たちも、クライミングの経験はあまり無いようで、「緊張したわー」「想像以上の難関だったね!」と、無事に大岩ルートを越えたことに安堵している様子だ。
そうだ、誰だって始めてのことには緊張するし、上手くできなくて当たり前。私は今日がトレランデビュー(しかも普段全然走ってないし)、力を抜いていこう!
岩場が終わると平坦な道になり、アランコーチを先頭に軽やかに走っていく。やはりあっという間に私だけ取り残される。走り出しては取り残され、しばらく走ると休憩場所で待っている皆に温かく出迎えられるというのを繰り返して進んでいった。焦りは感じなくなった。感じなくなったというか、感じている暇が無かった。
「ここからしばらく登りが続いて、また岩場に出ます。切り立った大きな岩の上でランチタイムにしましょう」。もうお昼の時間か。気持ちが今だけに集中していると、お腹が空くのを感じない。力を抜こうと思っても、まだ緊張が続いているせいもあるだろう。
登り坂は走らず歩くので、距離を離されることなくついていける。運動不足解消で地元の山を歩きだして半年。急な坂道を登るための心肺機能は、だいぶ鍛えられているようだ。

「トレイルランニングでは、急な登りは無理して走らなくて大丈夫です。登りも走れるようになると、トレランの大会で上位に入れると思います」とアランコーチ。ギョエー、やっぱり強者たちは登りも走るのか。
トレランの講習会や初心者向けイベントに参加すると、「登りは走らず歩きましょう」とレクチャーされる。登山コースなどを走る場合は急な登り坂も多く、全工程を走り切るには相当な体力が必要だ。60キロ、100キロなど長距離を走る大会に参加するランナーでも、登りは歩く派、小走りする派に分かれるようだ。
登りの途中、視界が開けて景色がきれいな場所になると、休憩をとって水分や行動食を補給したり、絶景を写真に収めたりもする。もし、山道を休むことなく10キロ走り続けるとなると、私にはとてもじゃないが無理だ。登りは歩く、平坦な道は走る、そして景色や写真撮影も楽しむというメリハリがあるから、ど素人でもなんとなっているのだろう。
登山やトレランのような長時間の移動や運動をする際に、合間合間でカロリーを補給するための食糧。小さなおにぎりやパン、羊かんやチョコレート、エナジーバーやジェル飲料などを好みとその日のスケジュールに合わせて用意する。持ち運びしやすく、高カロリーでエネルギー補給しやすく、できるだけ消化がいいものを選ぼう

トレランの魅力について考察しながら歩いていると、ランチ休憩を取る岩場に到着した。切り立った大きな岩がいくつも連なり、遠くには神戸の街と海が見渡せる。周りに遮るものが無いせいもあり、冬の冷たい風が一段と強く感じる。
登山とは違う!ランチタイムは食べやすさ重視で
「みなさん、好きな場所に腰かけてランチタイムにしましょう」とアランコーチ。大岩の端に椅子のように腰かけて両足を投げ出す人。岩と岩の間の1メートルはあろうかという隙間を、助走をつけて飛び越えていく人。皆が思い思いに好みの場所に陣取り食事を始める。(さすがにベテランの皆さんは度胸もすごい…。私は平らな岩の真ん中で食べよう)。恐る恐る岩の上を歩いて、一番安全であろう場所に座り込んだ。

初めてのトレラン、真冬の山という条件で、お昼にもなればさぞやお腹が空くだろうと思い、食べ物も豊富に用意してきた。だが、まだあまり空腹は感じない。行動食にしようと用意してきた小さなおにぎりを出して食べ始めた。でも寒いし、スープポットに入れてきたカレーは身体を温めるために少し食べておこうかな。そう思いスープポットをリュックから取り出す。
「よしぞうちゃん、やっぱりまだでっかいの入ってたね!」とキャットちゃん。「うん、山頂は寒いだろうからとカレー持ってきました」。「カレー!おいしそう!こぼさないようにね!(笑)」
うん、そうだよね。突っ込まれると思っていました!やはり私以外の面々は、おにぎりやサンドイッチ、エナジーバーなど手軽でコンパクトな食料を用意してきていた。
登山では、大きなリュックにランチを詰め込み、なんなら温かいコーヒーを飲むためにシングルバーナーなども入れたりする。完全にそのノリでここまで来てしまった。スープポットは岩場では安定して置くことができず、手を離すと強風に煽られてカレーをこぼしそうだし、落ち着いて食べられない。
その上、ザックの背面にピッタリ這わせるようにして、巨大なナンまで持参していた。この状況でザックから巨大ナンを取り出し、ちぎってスープポットのカレーにつけて食べるなんていう余裕は無い。「ナンもあるで~!」と取り出してみせたら、さらに笑いは取れるだろう。しかし、私は東京出身のなんちゃって関西人。残念ながらそこまでのスキルは備わっていない。いいのだ、カレーもナンも家に帰ってから落ち着いて食べれば。

「コーヒーとおやつを用意してきたので配りますね」と、温かいコーヒーと一口サイズのケーキを配って回るアランコーチ。コーヒーは保温ボトルに入れてきてくれたようだ。アランコーチも水筒持ってたのね。それに全員分のおやつまで。それなのにあの軽い走り!
「カフェインを取りすぎるとトイレが近くなりますが、少しなら大丈夫だと思います。疲れがとれますよ」とジェントルマンすぎるイケメンアランコーチ。寒風に吹かれながらの温かいコーヒーが体に染み渡る。
皆バラバラに座り、好きなものを食べ、景色を楽しんでいる。時折会話が生まれ、笑顔を交わしあう。
(なんだろう、この空気感。すごく楽ちん…)。大人数で一緒に行動していても、走っているときは1人だ。私は文字通り取り残されて1人で走っていたが、同じペースで走っていたとしても、やはり1人で走ることに変わりはないはずだ。自分の世界に没入しながら、さりげなく周囲にも気配りして、お互い心地よくあることを忘れない。
(トレランって、大人だな…)。トレランを擬人化してしまった。なんというか、それぞれ自立していて、自分1人でも十分楽しむ力を持っていて、だからこそ集団になっても依存しない爽やかな関係でいられるのだろう。
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